支配人のコラム <ことばの勉強会>と<伝統芸術の会>
2020年11月27日(金)

支配人のコラム <ことばの勉強会>と<伝統芸術の会>

支配人挨拶

支配人のコラム <ことばの勉強会>と<伝統芸術の会>

「ことばの勉強会」は劇作家の木下順二さんと、俳優の山本安英さんが1967年に東大YMCAで始められた会です。68年と72年には岩波ホールも使って行われ、以降、当ホール9階の集会室で93年までほぼ毎月行われました。約300回近く開催され、山本安英さんのご逝去によって閉会となりました。

テーマは「〈ことば〉をめぐって」「群読『知盛をめぐって』」「芸術語を考える」など多様で、毎回、難しい課題に真摯に取り組まれ、講師も演劇学者・河竹登志夫、野村万作、演劇評論家・尾崎宏次、評論家・江藤文夫、放送評論家・藤久ミネ、加藤周一さんなど、錚々たるメンバーでした。

その後、この活動から、各分野の俳優が集合し、新しい形の演劇が生まれました。平家物語を題材に、壇之浦の(前進座の嵐圭史さんの)知盛と(山本安英さんが演じる)巫女・影身の登場する壮大な物語「子午線の祀り」が、木下順二さんの手によって誕生したのです。

その稽古場には当ホールの集会室を使っていただき、当初は演出の宇野重吉、主役は前進座の嵐圭史、さらに俳優の滝沢修、能の観世栄夫、狂言の野村万作などの各氏が来られました。上演は1979~92年まで行われ、5次公演までありました。第1次の初回の会場は、壇之浦のある下関で、5次公演は、銀座セゾン劇場でした。

それまでの公演では、終盤に知盛と会話を交わす影身は、人間である巫女としての声でした。ところが、5次公演ではなぜか金属のような声に聞こえ、私はあとで安英さんに「今までと声が違いますね」と言いました。すると、「木下先生に星の声を出してくださいと、言われました」というお返事があり、感銘を受けました。

一方、社会心理学者の南博さんが主催の「伝統芸術の会」が、集会室を毎月使って講座を行ったのは78年からです。ただ、1968年のオープン時から、岩波ホールは「伝統芸術の会」と共催で講座を行っています。〈伝統と創造〉という柱を掲げ、半年かけて、「日本の舞踊」、「能における伝統と創造」など、実演とシンポジウムまたは講演をつけて毎月実施しました。

南博さんは、戦後アメリカから最先端の社会心理学をひっさげて帰国され、髙野悦子総支配人が学生のころ教えを受けた方です。教壇に足をのせて授業をされたと聞いておりますが、そういう方が、日本の古典芸能に詳しくまた関心を持たれていたというのが、すばらしいことです。なお、髙野がこの先生の指導で、大学で映画をテーマにいろいろ調査研究をしたことが、のちの岩波ホールの活動につながったと思うと、深いご縁を感じます。

*このコラムは、第2、第4金曜日に掲載いたします。次回は12月11日の予定です。

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