少々おかしな題名と思われるかもしれませんが、前回が女性監督でしたので、こうなりました。エキプ発足以降の監督数としては、7名になります。時代を追ってお名前をあげますと、小栗康平、村野鐵太郎、黒木和雄、野村惠一、川本喜八郎、日向寺太郎、佐々木昭一郎の皆さんです。
このうち、村野、黒木、野村、川本監督が故人となられました。上映回数でいうと、黒木さん4本、小栗さんと村野さんが2本で、あとの方々は1本です。黒木さんは1998年に「TOMORROW/明日」を上映の後、しばらく間をおいて、2003から06年にかけて、「美しい夏キリシマ」(03)「父と暮せば」(04)「紙屋悦子の青春」(06)と、戦争4部作ともいうべきすぐれた作品を発表されました。監督は思春期に敗戦を迎え、その頃アメリカの飛行機に撃たれて死んだ友人を助けられなかったという後悔に一生苛まれた方です。残念ながら、「紙屋悦子」の公開前に倒れて急逝されました。
小栗さんはかつて「泥の河」(1981)で一斉に注目を浴びた方ですが、当ホールでは、「伽椰子のために」(1984)で在日朝鮮・韓国人の問題をとりあげ、また「眠る男」(1996)では韓国の大スター、アン・ソンギを映画の中でずっと眠らせるという大胆な設定でした。後者は、群馬県が製作を担当したという珍しい作品です。村野さんは大映でダイナミックな作品で活躍ののち、フリーの監督として森敦原作の「月山」(1978)という静謐な作品を演出され、話題となりました。「国東物語」(1984)では勇壮な大友宗麟を描いています。
野村監督の「二人日和」(2005)は長年連れ添った夫婦の深い絆を描いたもので、主役の藤村志保さんと栗塚旭さんはたびたび劇場を訪れ、観客と交流をして下さいました。人形アニメーションの大御所で日本文化に造詣の深い川本喜八郎監督の「死者の書」(2005)を上映できたのは大変光栄でした。上映期間中は古代の奈良を旅している心地がしていました。川本さんは生まれ変わっても人形をつくりたいと言っておられました。
日向寺太郎監督は黒木監督の弟子で、アニメで有名な「火垂るの墓」(2008)の実写版を上映しました。その後、特別上映の「こどもしょくどう」(2018)は日本の貧しい子供たちの現状を描き、大きな問題提起となりました。そしてかつて一世を風靡した佐々木昭一郎監督は、新作「ミンヨン 倍音の法則」(2014)で観客に斬新な世界を体験させてくれました。
さて、来年は、上記の男性監督の系譜に新たに一名、坪川拓史監督が加わります。室蘭を舞台にした7話オムニバスの映画「モルエラニの霧の中」を、岩波ホールの再オープン第一弾作品として上映いたしますので、ぜひ、ご期待ください。
*写真は、撮影中の黒木和雄監督。
*このコラムは、第2、第4金曜日に掲載いたします。次回は1月8日の予定です。